
孤独感を減らす“やさしさ”の力 〜青木の修士論文より〜
●はじめに
こんにちは。カノン・エージェンシー代表の青木淳です。
弊社は主にシニア層の従業員を多く抱える人財系の会社です。一般的にビジネスの3原則は「ヒト・カネ・モノ」と言われています。
しかしながら、弊社は「ヒト・カネ・“ヒト”」と、つまり、サービス内容が「ヒト」ということになります。そのため、私どもの会社では、人財マネジメント能力は必須ということになります。
そこで、私は人の心の理解を深めるために、大学院で心理学を学び、「前期高齢者(65〜74歳)の孤独感」について研究を行いました。
今回は、私が執筆した論文を皆さまにもわかりやすくご紹介いたします。
●高齢社会と“こころの問題”
日本では、65歳以上の方が3人に1人という時代です。
身体の健康と同じくらい大切なのが、心の健康。
特に前期高齢期(65~74歳)に増えやすい「孤独感」は、うつや不安など心の不調にもつながることがわかっています。
●孤独感をやわらげる2つの力
私の研究では、「孤独感を少なくするために、どんな要素が関係しているのか?」を調べました。
特に注目したのは、以下の2つの“こころの力”です。
① 利他行動(りたこうどう)
→ 自分のためではなく、誰かのためにやさしい行動をすること。
(たとえば、友人や他人、家族の手助けをするなど)
② セルフ・コンパッション
→ 辛いときに、自分のことを責めすぎず、やさしく思いやる心。
(「年をとった自分もよくがんばっている」と受けとめる力)
●わかったこと
約800人の65〜74歳の方々にご協力いただいた調査の結果、以下のことが明らかになりました。
①家族や友人に親切にする人ほど、「辛いときに自分を大切にする気持ち(セルフ・コンパッション)」が高く、そして孤独を感じにくい
②特に男性は、「家族へのやさしさ」が自分へのやさしさにつながり、結果として孤独感が少なくなる
③女性は、「友人や知人との交流」が孤独感の軽減に特に有効
●人とのつながりが、心の栄養になる
この研究を通じて私が強く感じたのは、「他者へのやさしくできる人」は、「辛いときに自分自身も優しくできる人」ということです。
自分を思いやり、他人にもやさしくすること。
そんな小さな行動が、孤独を防ぎ、心の健康を守る大きな力になります。
●利他行動ってどうやって増やせばいいの?
「人のために何かをすること」が、自分の孤独感をやわらげる。
そうは言っても、「そんなに誰かの役に立てていない気がする…」という方もいるかもしれません。
実は、利他行動(人のための行動)を増やすコツは、ほんの小さな「思いやりの積み重ね」から始まります。
●幼稚園送迎ドライバーさんの“さりげない利他行動” 〜園を支えるやさしさ〜
たとえば…
・園のまわりに落ちているゴミをさりげなく拾う
→「子どもたちの環境を守ろう」という気持ちが、行動に表れます。気づいた人の心もあたたまります。
・忙しそうな先生に「何かお手伝いしましょうか?」と声をかける
→たとえば、雨の日に傘を持つのを手伝ったり、荷物を運ぶのを手伝うなど、ちょっとした支援が助けになります。
・園児に「今日は元気かな?」と優しく声をかける
→子どもは、いつも見守ってくれる大人の存在に安心を感じます。言葉かけひとつで、信頼が深まります。
これらはすべて立派な利他行動です。
「自分にはできることがある」と実感することが、心の健康にもつながります。
さらに、そのほかの組織でも、「気にかける」「教えてあげる」「感謝を伝える」といった日常的な関わりが、結果的に本人の満足感やつながりを強めることが、研究でも明らかになっています。
●セルフ・コンパッションを高める3つの習慣
「人には優しくできるけど、自分には厳しい…」
そんな方にこそ取り入れてほしいのが、セルフ・コンパッション(自分への思いやり)です。
以下の3つの習慣を日常に取り入れてみてください。
①「失敗してもいい」と言ってあげる
誰にでも間違いやうまくいかない日があります。
そんなとき、「なんでできなかったんだ!」と自分を責めるのではなく、
「今日はちょっと調子悪かっただけ」と声をかけるつもりで、自分に優しくすることが大切です。
② 「自分と他人を比べすぎない」
「年齢のわりに働けていない」「○○さんは元気そうなのに…」
こうした比較は、心の元気を削ってしまいます。
「自分は自分のペースで大丈夫」と受け止めてあげましょう。
③「自分の感情をありのまま感じる」
「こんなことで気分が沈むなんて、自分は弱いのかな」と否定せずに、
「今日は少し気分が重い日なんだな。そんな日もあるよな。」
無理に明るくしようとせず、無理に落ち込みすぎずに、感情に静かに寄り添いましょう。
●シニア人財が孤独を感じずに働ける職場とは?
カノン・エージェンシーは「シニアの方が、ただ働くのではなく、人とのつながりを感じながら働ける環境」を大切にしています。
それが心の健康を支えるからです。
研究でも、「働くこと」が収入だけでなく、役割・目的・社会参加という心理的な効果をもたらし、孤独感の軽減に役立つと報告されています。
では、どんな職場が「孤独を感じにくい」のでしょうか?
以下の3つがヒントになります。
・声かけや雑談がある
たとえ短い会話でも、「気にかけてもらえている」と感じられることが、安心感につながります。
・ちょっとした手助けをし合える雰囲気
「この荷物、運びますよ」「この手続き、一緒にやりましょうか」など、自然に助け合える文化があると、居心地がよくなります。
・感謝が伝わる場面がある
「いつもありがとう」「助かっています」と伝える・伝えられる職場では、自分の価値を感じやすくなり、孤独とは無縁になります。
●さいごに
「誰かのために何かをする」「自分を責めすぎずに受け入れる」。
この2つの力が、シニアの方の心の健康と“つながり”を支えるカギです。
私たちカノン・エージェンシーは、シニアの皆さまが「誰かの役に立っている」「社会とつながっている」と感じながら働ける環境づくりを目指しています。
今回の研究も、そうした考えの延長線上にあります。
これからも心と現場の知見を融合させながら、シニアの皆さまの生きがいと健康を支える会社を目指してまいります。
株式会社カノン・エージェンシー
代表取締役 青木 淳